最終更新日:2020/06/04
テレビなどでよく耳にすることの多い「畏敬の念」という言葉は、 大自然や神や仏などに対して、自然に心に浮かぶ気持ちのことです。
ただ人に対して「畏敬の念」と使うことはあまりないので、具体的にどんな感情を表す言葉なのか、使いどころが分からず少し混乱してしまいがちですよね。
そこで今回は、「畏敬の念」の意味とその使い方、類語や対義語を詳しく解説します。
1.「畏敬の念」の意味
畏敬の念
読み方:いけいのねん
意味:崇高なもの、また偉大な人をおそれうやまう思い
崇高・偉大な存在に対しおそれうやまうこと
「畏敬の念」の「畏」は「おそれ、かしこまる」、「敬」は「うやまう」という意味を持っています。
「念」には「おもい」という意味があり、この3つを組み合わせた「畏敬の念」は、「 相手に対して無条件に畏れうやまう思い」を表す言葉です。
相手を敬う気持ちを表す言葉には、「尊敬」という言葉もよく使われますが、「畏敬の念」は「その存在の前では無意識にひれ伏してしまう、高みにいる存在」に対して使います。
そのため大自然や神仏に対して多く使われます。
「畏怖の念」との違い
「畏敬の念」とよく混同されがちなのが「畏怖の念」です。
「畏怖の念」は相手に対して抱く恐怖の気持ちを表した言葉です。
「畏敬の念」のように、「おそれながら敬う」気持ちとは意味が違いますので、注意しましょう。
2.「畏敬の念」の3つの使い方
「畏敬の念」を使った表現は、文学表現では多く使われますが日常会話ではなかなか使うことがありません。
そのため「この時に使っても大丈夫かな?」と心配になってしまうこともありますよね。
そこで、「畏敬の念」を会話で使う時の3つの使い方とその意味を解説します。
2-1.畏敬の念を抱く(いけいのねんをいだく)
「抱く」は「だく」ではなく「いだく」と読みます。
「畏敬の念を抱く」とは、「 超越した存在・崇高な存在に対して、無条件に敬う気持ちを持つこと」をいいます。
どういった場合に使うのか、例文をご紹介します。
<例文>
- 国や人種に関係なく救いの手を差し伸べたマザー・テレサの行動に、畏敬の念を抱いた。
- 富士山頂から見た朝日を見た時、言葉にできない畏敬の念を抱いた。
2-2.畏敬の念に打たれる(いけいのねんにうたれる)
「打たれる」とは、「打つ」という動詞に「れる」という受け身の助動詞がついて変化した言葉です。
対象によって感情が引き起こされ、感動を受けることを表す言葉です。
分かりやすく例文で見ていきましょう。
<例文>
- その人の行動は、自分のためではないということを知った時、私は畏敬の念に打たれた。
- しぶきをあげて流れる滝を見た瞬間、畏敬の念に打たれて立ちすくんだ。
2-3.畏敬の念を覚える(いけいのねんをおぼえる)
「覚える」とは、「自然に心の中にわき上がる感情を、体や心で感じる」ことです。
「抱く」や「打たれる」が「自分では意識しなくてもわき上がる感情」を表すのに対し、「覚える」には「自分の中にわき上がった感情が、何から起きているのかを自覚する」という意味があります。
例文で詳しく見ていきましょう。
<例文>
- 彼の話を聞いていると、彼の行動力にはただ畏敬の念を覚える他ない。
- 大自然の前では私たちが、いかに無力であるかを思い知らされ、畏敬の念を覚える。
「畏敬の念を覚える」には、「相手がいかに素晴らしい存在か分かった上で、どうやっても敵わないことを理解する」という感情が込められています。
続いては、「畏敬の念」と似たような意味を持つ類語をご紹介します。
3.「畏敬の念」の類語5つ
「畏敬の念」は、難しい漢字を使うため、あまりなじみがない言葉です。
このことを表現する場合、 「「畏敬の念では伝わりにくいかも?」と感じる場合には、他の言葉で言い換えることも考えてみましょう。
そこで「畏敬の念」と同じような意味を持つ5つの類語と、「畏敬の念」との違いを解説します。
類語1.尊敬(そんけい)
尊敬
読み方:そんけい
意味:
- 相手の人格をとうといものと認めること
- 相手の行為、業績を認め、うやまうこと。
「畏敬の念」は自然や神仏など、人ではない存在にも使いますが、「尊敬」を使うのは人に対してのみです。
さらに「尊敬」は自分より高いところにいる人だけでなく、友人など自分と同格の相手にも使います。
また、「畏敬の念」は、自分が見上げる存在に対して使うという違いがあります。
分かりやすく例文で見てみましょう。
<例文>
彼は私よりも年下だが、その人柄は尊敬している。
類語2.崇敬(すうけい)
崇敬
読み方:すうけい
意味:
- 崇(あが)め敬うこと
- キリスト教では「父なる神」「御子(みこ)イエス・キリスト」「聖霊(せいれい)」と区別し、人間である「聖母マリア」や「聖人」に対して使う
「崇敬」は神仏や立派な人に対して、敬う気持ち、尊敬の気持ちを表した言葉です。
キリスト教や仏教では、聖人と呼ばれる存在に対し、敬う気持ちを表します。
「畏敬の念」が神仏を敬う気持ちを示すのと同じように、相手を敬う気持ちを表しますが、対象が違うため注意が必要です。
例文で見てみましょう。
<例文>
その方は生き仏となり、多くの人に崇敬された。
類語3.敬愛(けいあい)
敬愛
読み方:けいあい
意味:尊敬と敬いの気持ちと共に、親しみの気持ちを持つこと
「敬愛」は、「 相手のことを尊敬し敬う気持ちだけでなく、相手と笑顔を交わし合うような親しみの気持ちもある」という意味です。
「畏敬の念」が高みにいる存在に対し、敬う気持ちと共に畏れの気持ちも表すことと比べ、「敬愛」は身近な存在に対して持つ気持ちです。
例文を見ていきましょう。
<例文>
校長先生は厳格な教育者として知られているが、私たち生徒からは敬愛されていた。
類語4.畏懼(いく)
畏懼
読み方:いく
意味:おそれおののくこと
「畏懼」の「懼」には、「おそれる」という意味があります。
「畏」にも同じように「おそれる」という意味があり、「畏懼」には「ひたすら相手をおそれかしこまる」ことを表します。
例えば身分の高い人に対し、その家臣などが抱く気持ちが当てはまります。
「畏敬の念」と違い、「畏懼」は人に対して使う表現です。
例文をご紹介します。
<例文>
また汝らの衷(うち)にある望の理由を問ふ人には、柔和と畏懼とをもて常に辯明(せつめい)すべき準備をなし、〜
(キリスト教を知らない人が「キリスト教を信じる理由」を聞いてきたら、常にやさしく、おそれかしこまった気持ちを持って説明する準備をして、〜)
キリスト教の教えを知らない人に対する、教えを広げる方法について、キリストの使徒ペテロの手紙にある言葉です。
この場合の「畏懼」は、「人をおそれおののかせるような態度」を表しています。
類語5.崇拝(すうはい)
崇拝
読み方:すうはい
意味:
- 尊敬し、あがめること
- 宗教においては、対象を崇め救済を求めること、神聖なるものに自己をゆだねること
「崇拝」は神仏などに対して使われる言葉で、「畏敬の念」とよく似ています。
ただし「崇拝」の場合は人に対して使う言葉で、自然などものに対して使うことはありません。
「崇拝」は「祈る対象があり、その対象に対して崇め敬う」ことです。
例文をご紹介します。
<例文>
私は、彼女のことを自分の女神だと思いひそかに崇拝している。
4.「畏敬の念」の対義語5つ
「畏敬の念」とは反対の意味を持つ対義語には、「相手を下にみる」という意味の言葉が当てはまります。
相手を敬う気持ちとは逆なので、よい意味の言葉ではありませんが、参考に見ていきましょう。
対義語1.軽蔑(けいべつ)
軽蔑
読み方:けいべつ
意味:相手の人格や能力を劣ったものと見なすこと
「軽蔑」には、「 相手のことをさげすんだり、見下して馬鹿にする、相手にしない」という意味があります。
そのため「相手のことを無条件でおそれあがめる」意味のある「畏敬の念」とは逆の意味の言葉です。
例文を見ていきましょう。
<例文>
特定の職業を軽蔑するのは、間違った考え方だ。
対義語2.軽侮(けいぶ)
軽侮
読み方:けいぶ
意味:人を見下すこと、軽んじてあなどり馬鹿にすること
「軽侮」は、「相手を軽く見る、さげすむ」という意味です。
「軽蔑」が「相手にしない」意味を表すのと比べ、「軽侮」は「相手にするが馬鹿にする」という違いがあります。
「畏敬の念」とは逆に、相手のことを尊重しないという意味です。
例文を見ていきましょう。
<例文>
大した相手じゃないと軽侮していたつもりが、まんまとだまされてしまった。
対義語3.侮蔑(ぶべつ)
侮蔑
読み方:ぶべつ
意味:相手のことを自分より劣っているとみなし、さげすむこと
「侮蔑」は、「相手のことを侮り、さげすんだり馬鹿にしたり、ののしったり、ないがしろにする」という意味です。
相手を「侮蔑」する時に使われる侮蔑語という言葉もあります。
また「侮蔑」は相手に対する言葉や態度だけでなく、心に抱く感情のことも含んでいます。
この感情がわき上がる点では、「畏敬の念」と共通の面もありますが、相手のことを見下す点において逆の意味の言葉です。
例文をご紹介します。
<例文>
彼の態度には、私への侮蔑の意図が含まれているように思えてならなかった。
対義語4.卑しむ(いやしむ)
卑しむ
読み方:いやしむ
意味:
- 品のない、おとったものとしてさげすむこと、馬鹿にすること
- いつまでも満足せず、お金や食べ物を要求すること
「卑しむ」には、「品がない態度や行動を見下す」という意味があります。
「軽蔑」は相手のことをよく知らなくても、第一印象や思い込みで見下してしまう場合にも使いますが、「卑しい」の場合は「見て感じた印象」に使われます。
例文をご紹介します。
<例文>
人の顔色をうかがうような卑しい態度に腹が立った。
対義語5.見下す(みくだす)
見下す
読み方:みくだす
意味:
- 相手のことを自分より下だと思って馬鹿にして見る
- 下の方をみる、みおろす
「見下す」は、「相手のことを自分より下に見て馬鹿にする」という意味です。
「軽侮」と同じような意味の言葉です。
「畏敬の念」が「高みにいる人を仰ぎ見るような気持ち」を表すのと逆に、「人のことを下に見る」態度を表すのが「見下す」です。
例文をご紹介します。
<例文>
自分のプライドを守るためなのか、すぐに見下す態度を取るのが許せない。
続いては、「畏敬の念」の英語表現をご紹介します。
5.「畏敬の念」の英語表現:awesome
「畏敬の念」を英語で表現する場合はどんな言葉が当てはまるでしょうか。
「畏敬」を意味する単語には、「awe」があります。
「畏敬の念」の場合は、形容詞である「awesome」が当てはまります。
awesome
意味:
- 荘厳な、印象的な、素晴らしい、畏敬の念を起こさせる
- 素晴らしい、カッコイイ、最高、ヤバい(スラング)
「awesome」を使った例文をご紹介します。
<例文>
The earthquake was awesome in its power.
(地震の威力は畏れを感じさせるものだった)
まとめ
「畏敬の念」」は、「大自然や神仏など崇高なもの、また高みにいる存在に対して抱く感情」です。
自然にわき上がる感情であることから、自分と同格の相手に対して使う「尊敬」とは別の意味があります。
普段はなかなか使うことがない言葉ですが、人に対して使う「尊敬」や「敬愛」と混同することのないよう、注意して使いましょう。