最終更新日:2020/06/16
「喝(かつ)」の一般的な意味は「大きな声で叱ること、脅すこと」です。
禅宗では、指導者が修行者を、導いたりする手段として大声を出すことを言います。
また、禅宗で「喝」の意味は4つあるのですが、日常会話でこの4つの意味のいくつかを混同して、使用していることが多くあります。
例えばビジネスでも「喝を入れる」が正しいのか、「活を入れる」が正しいのか、よくわからないですよね。
そのため、今回は「喝」4つのの意味や「活を入れる」との違いを解説します。
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1.「喝」の意味
喝
読み:かつ
意味:大きな声で叱ること、脅すこと
1-1.意味は「大きな声で叱ること、脅すこと」
「喝」の意味は「大きな声で叱ること、脅すこと」を言います。
「恫喝(どうかつ)」「恐喝」などの熟語からも分かるように、大きな声で威嚇して、脅して相手をひるませる意味で使います。
2.禅宗では4種類の「喝」がある
一般的な意味は「大きな声で叱ること、脅すこと」ですが、禅宗では以下の4つの意味を持ちます。
- 本来の自分に立ち返らせる喝:金剛王宝剣(こんごうおうほうけん)のごとし
- 相手の思い上がりを潰す喝:踞地金毛(こんじきんもう)の獅子がごとく
- 相手の力量を見抜く喝:探竿影草(たんかんようぞう)のごとく
- 3つを包括し、真理に到達した状態:ある時の一喝は一喝の用(ゆう)を為さず
臨済宗(りんざいしゅう)を開いた臨済義玄禅師(りんざいぎげんげんし)は、これら4種類の喝を使い分けていたと言われています(臨済四喝)。
それが喝の4つの意味の由来です。
それぞれどんな喝だったのでしょうか?
2-1.本来の自分に立ち返らせる
1つ目の喝は、本来の自分に立ち返らせる働きをする喝で、「金剛王宝剣のごとし」といいます。
「金剛王宝剣」という何でも切れる刀が一刀両断にするように、一喝をするイメージを表した言葉です。
何を切るかと言うと、煩悩や善悪という、人や物事を勝手に分けて、判断する心のことです。
この「喝」を仕事に例えて考えてみましょう。
例えば、いつの間にか、仕事の人間関係でも「この人はこういう人だ」という思い込みがついて離れませんよね。
そんな時の一喝が、本来の自分に立ち返らせて、フラットに物事をみる姿勢を取り戻す喝だと言えます。
2-2.相手の思い上がりを潰す
2つ目の喝は相手の思い上がりを潰す喝で、「踞地金毛(こんじきもう)の獅子の如く」といいます。
「踞地(こじ)」とは、大地に低い姿勢で身構えることであり、「獅子(しし)」とは、ライオンのことです。
これは、ライオンが大地に低い姿勢で身構えて、今にも獲物に飛びかかろうとする姿を喩えています。
このライオンが力強く吠えれば、周りの獣たちは怖くて逃げ出したくなりますよね。
このことを、仕事に例えて考えてみましょう。
例えば、部下が仕事で思い上がっているときに、過信を気づかせるような、上司の強い叱咤が必要なときがあります。
その際は、相手の慢心を潰すような、喝を入れなければなりませんね。
そんな時の一喝が、この思い上がりを潰す喝だと言えます。
2-3.相手の力量を見抜く
3つ目の喝は相手の力量を見抜く喝で、「探竿影草(たんかんようぞう)のごとく」といいます。
「探竿影草(たんかんようぞう)」とは、棒を使って、魚捕りが草の下に魚がいるか探る様子を言います。
魚がいるかいないかという、相手の状態や力量を見極める喩えとして「探竿影草(たんかんようぞう)の如し」と言っています。
この「喝」は日常ではあまり使用されていませんが、相手の力量を見抜くという意味があることを覚えておきましょう。
2-4.3つを包括し、真理に到達した状態
最後の喝は、これまでの3つの喝をまとめた喝です。
真理に達した状態の喝で、「ある時の一喝は一喝の用(ゆう)を為さず」といいます。
これは、今までお伝えした喝とは次元の違う意味を持ちます。
今までの3つは「喝」という言葉を発し、「相手を正すため」「思い上がりを潰すため」といった目的を持ったものでした。
しかしこの喝は、目的もない、言葉もない「喝」のことを言います。
例えば、ご飯を食べているときも、デスクワークをしているときも「喝」の状態だということです。
つまり、日常のどのような時でも「喝」があるということが分かった境地です。
よって「3つの喝を含めた喝」という意味であり、すべての理(ことわり)である真理が分かった状態だとされています。
3.「喝を入れる」は「気合を入れる」ではない
先程「喝」の意味を伝えたとおり「喝を入れる」は「気合を入れる」という意味ではありません。
では「気合を入れる」という意味で「かつを入れる」はどのような漢字を使うのでしょうか?
実は「活を入れる」が「気合を入れる」という意味です。
3-1.「活を入れる」が「気合を入れる」という意味
活を入れる
読み:かつをいれる
意味:気絶した人の息を吹き返らせる、刺激を与えて元気づける
「活を入れる」の意味は、「気絶した人の息を吹き返らせる」「刺激を与えて元気づける」です。
柔道などで、気絶した人の息を吹き返らせる術のことを「活を入れる」と言います。
このイメージと同様に「気合を入れる」「元気づける」といった意味を持つ言葉です。
ビジネスでも「かつを入れるぞ!」と上司から背中をバシっと叩かれるシーンがありますよね。
そんな時に使用する漢字は「活」ですので「喝」と間違えないように注意しましょう。
では、そんな「喝」はどのように使うのでしょうか?
続いては「喝」の使い方と例文をご紹介します。
4.「喝」の使い方と例文
「喝」は「大きな声で叱り、本来のニュートラルな自分に引き戻す」ために使うことが多いです。
そのようなイメージで喝の使い方をみると、わかりやすく捉えられますよ。
ここでは、以下の3つの「喝」の使い方を紹介します
- 自分に喝を入れる
- 喝を飛ばす
- 喝を加える
では「喝を入れる」も含めて、使い方と例文を見ていきましょう。
4-1.「自分に喝を入れる」
「自分に喝を入れる」とは、落ち込んでいる自分自身に「頑張れ!」と本来の生きる力を取り戻すために、叱ることです。
この叱るというのは「何をやっているんだ!」といったミスを指摘する意味ではなく、マイナスな状態を元に戻すイメージです。
「活を入れる」との違いは、ゼロからプラスにするのが「活を入れる」で、マイナスをゼロに戻すのが「喝を入れる」というニュアンスです。
使い方がわかったところで、例文を見てきましょう。
<例文>
転職活動で、何度も面接に落ちて沈んでいる自分に喝を入れた。
4-2.「喝を飛ばす」
「喝を飛ばす」とは、元気づける言葉を相手に送ることを言います。
落ち込んでいる相手に対して、励ましの言葉や活力を与えられるような刺激を発する事を言います。
慰めるというよりは、落ち込んでいる相手の状態に「あなたはそんな人じゃないでしょ!いつも素敵じゃないの!」と熱いメッセージを送るイメージが近いですね。
使い方がわかった所で、例文を紹介します。
<例文>
大口の取引先から数字を落とした同僚に、喝を飛ばした。
4-3.「喝を加える」
「喝を加える」とは、元気づける励ましや言葉を、相手に加えることを言います。
「喝を飛ばす」と意味はほぼ同じですが、言葉を送った後のニュアンスに、違いがあります。
「喝を飛ばす」は、飛ばされた相手が自ら立ち上がってくるのを待つイメージですが、「喝を加える」は背中を後押しするイメージですね。
「お前はこんなもんじゃない!」と熱いメッセージを送るのが「喝を飛ばす」であれば、「お前ならできるよ!」と背中を後押しするのが「喝を加える」といったニュアンスです。
使い方のイメージがつかめたところで、例文をご紹介します。
<例文>
資格試験の前日、不安に思っている後輩に喝を加えた。
「喝」の使い方と例文をご紹介しました。
続いては「喝」の意味と近い言葉である類語と例文をご紹介します。
5.「喝」の類語と例文
「喝」の類語は、様々あります。
ここで、よく日常でも使用し、意味が類似している単語を3つ取り上げて、例文も含めご紹介します。
- 叱る(しかる)
- 刺激を与える(しげきをあたえる)
- 魂を呼び覚ます(たましいをよびさます)
では、順に説明していきますね。
類語1.「叱る」
「叱る」の意味は「目下の者に対して、相手のよくない言動や行動を怒り、強い様相で責めること」です。
これは、一般的な「大きな声で叱ること、脅すこと」という意味に近いです。
また、よくない言動に対して責める意味ですから、相手の思い上がりを潰す「喝」と似た意味もあります。
使い方としては、親であれば子供を、上司であれば部下を指導する場面に使いますね。
では、例文をみていきましょう。
<例文>
- 特定の子をいじめている様子を見て、母親は子供を叱った。
- 重大な資料を準備し忘れたまま会議に入った部下を、上司が叱った。
類語2.「刺激を与える」
「刺激」の意味は「なんらかの現象や反応を起こさせること」「動きを活発にさせるきっかけとして、外から作用すること」を言います。
ですから刺激を与えるとは「何かしら動きを活発にさせる作用を、外から与える」という意味です。
これは、相手に刺激を与えることによって、本来の自分に立ち返らせる「喝」と似た意味を持っていますね。
使い方としては、今まで以上に活発な行動を促すために使います。
では、例をみていきましょう。
<例文>
2人の同年齢の部下を抱えている上司は、それぞれのライバル意識に刺激を与えるために、互いを褒めて讃えた。
類語3.「魂を呼び覚ます」
「魂」には様々な意味を持ちますが、大きな意味合いとして「精神、心」という意味です。
「呼び覚ます」は、「眠っている人に声をかけて目覚めさせる」「うちに秘めていた記憶や感性をよみがえらせる」という意味です。
これらを組み合わせると「うちに秘めていた精神や心を目覚めさせる」という意味を持ちます。
これは、内に眠っている心を呼び覚ませて、本来の自分に戻させる目的の「喝」と同じ意味ですね。
日常で使うことは多くはありませんが、聞くことは多くあります。
例えば、急激な進化を遂げたアスリートに対して、実況や解説者が使う場面です。
例をみていきましょう。
<例文>
紅白戦では成績も良くなかった彼が、開幕戦で4打数4安打の活躍をした。彼の眠っていた魂を呼び覚ましたかのごとき変化だ。
「喝」の類語を紹介しました。
ぜひ同じような意味合いを持つので、紹介した類語も使ってみてくださいね。
さて、「叱る」「本来の自分に立ち返らせる」「相手の力量を測る」といった様々な意味を持つ「喝」を、類語を通して別の言葉と比較することを通し、更に理解していきました。
より深く理解するためにも、反対の意味を持つ対義語も知っていきましょう。
続いては、「喝」の対義語と例文をご紹介します。
6.「喝」の対義語と例文
類語と同様に「喝」の対義語は、様々あります。
こちらも、よく日常でも使用し、意味が異なっている単語を3つ取り上げて、例文も含めご紹介します。
- 弛緩(しかん)
- 解ける(ほどける)
- 淀む(よどむ)
では、順に説明していきますね。
対義語1.「弛緩(しかん)」
弛緩
読み:しかん
意味:ゆるむこと、たるむこと
弛緩とは「緊張感がなく、ゆるむこと、たるむこと」を言います。
「喝」との違いは、緊張感があるか、ないかで判別できます。
「喝」は緊張感を持って、精神が張り詰めた状態で言葉を発し、相手を本来の状態に戻します。
逆に「弛緩」は、精神が緩んでいますから「喝」とは逆の意味を持つ用語です。
それでは、例文をみていきましょう。
<例文>
売上目標を達成できなくても、何の危機感を持たない。このチームは弛緩しきっている。
対義語2.「解ける」
解ける
読み:ほどける
意味:結ばれていたものがわかれる、感情の高まりやわだかまりがなくなる
「解ける」は「結ばれていたものがわかれる」「感情の高まりやわだかまりが消える」という意味です。
「喝」との違いは、こちらも緊張感があるか、ないかで判別できます。
「喝」は緊張感を張り詰めている状態で、「解ける」は緊張感が緩まった状態のことを言います。
そのため、2つは逆の意味をもつ用語です。
また「弛緩」との違いを説明すると、例えば「弛緩」は「筋肉が弛緩している」といった、客観的な事実を表現しやすいです。
それに対して、自分自身の感情などの主観的な想いを表現しやすいのが「解ける」だと捉えてください。
例文を見ていきましょう。
<例文>
取引先でのプレゼンテーションが終わり、緊張の糸が解けた。
対義語3.「淀む(よどむ)」
淀む
読み:よどむ
意味:流れがとどこおって水がたまる。沈滞して、活気がなくなる
「淀む」の意味は「流れが滞ってたまること」「沈滞して、活気・元気がなくなる」という意味です。
「喝」との違いは、活気を取り戻すか、活気が低下するかの違いです。
活気を取り戻す「喝」に対して、沈滞していて活気が低下している「淀む」という違いがあります。
「淀む」を更に詳しく説明すると、水たまりを想像するとわかるように、水は流れていないとすぐに汚れてしまいます。
これは、目に見えない心や場の雰囲気も同じことです。
使い方を見ていきましょう。
例えば社内のコミュニケーションが活発でなく、いつも何か言いたいことを溜めている状態だとします。
そんな時に、「淀む」を例のように使います。
<例文>
毎日、何か言えずに悶々としている雰囲気が続いていて、社内が淀んだ空気に包まれている。
「喝」の対義語を説明しました。
違いを知ることで、より「喝」の意味が深まったことでしょう。
では、日本人ではなく、外国籍の人に対して「喝」はどのように説明すれば良いでしょうか?
「喝」の英語表現も理解する必要がありますよね。
続いては「喝」の英語表現を説明します。
7.「喝」の英語表現
「喝」を英語表現にすると「encourage(励ます)」「light a fire under〜(やる気にさせる)」「give 〜a pep talk(叱咤激励する)」という表現ができます。
- encourage
- light a fire under〜
- give 〜a pep talk
それぞれ、「本来の自分を取り戻す」といった「喝」の意味に近い表現です。
では、順番に説明しますね。
英語1.encourage(励ます)
「encourage」は「励ます」「勇気づける」という意味を持ちます。
「en-」は「その状態にする」という意味で、「cor」は「心」という意味です。
つまり、「心に力を取り戻す状態にする」ということです。
マイナスの状態をゼロに戻そうとする動きですから、「喝を入れる」と同じようなニュアンスですね。
例文を見ていきましょう。
<例文>
I encouraged him to make a final result.
(私は彼が目標達成できるように、勇気づけた)
英語2.light a fire under〜(やる気にさせる)
「light a fire under〜」は「やる気にさせる」「モチベーションがかかっていない状態を、かかる状態にする」という意味です。
本来の自分に立ち返らせる「喝を入れる」と同じニュアンスですね。
例文を見ていきましょう。
<例文>
I think you needs to light a fire under your colleague.
(あなたが、同僚をやる気にさせる必要があると私は思うよ)
英語3.give 〜a pep talk(叱咤激励する)
「give 〜a pep talk」は「叱咤激励する」という意味です。
pep talkとは、スポーツで選手を励ますために、ここぞという試合の前に、指導者が行う短い激励メッセージのことを言います。
現在、アメリカでは営業マン研修やモチベーション向上の研修にも取り入れられています。
本来の力を取り戻させる「喝を入れる」にとても近い表現ですね。
以下の例文のように使います。
<例文>
The soccer team coach give a pep talk to player for final game.
(サッカーチームのコーチは、決勝戦に向けて叱咤激励をした)
まとめ
「喝」の一般的な意味は「大きな声で叱ること、脅すこと」です。
禅宗では4つの意味があり、それぞれ「本来の自分に立ち返らせる」「思い上がりを潰す」「相手の力量を測る」「3つを包括したもの」です。
その中でも「本来の自分に立ち返らせる」意味での「喝を入れる」と「活を入れる」の違いを説明しました。
それは、精神状態をマイナスからゼロにするか、ゼロからプラスにするか、というニュアンスの違いで使い方を分けることでした。
微妙なニュアンスですが、それぞれの違いを知りながら、ビジネスにも使ってみてくださいね。
他にも「喝」の意味を深めるため、類語や対義語、英語表現としての「give〜pep talk」などを説明しました。
一言で「喝」と言っても、様々な意味を持つことを理解して、表現していきましょう。