最終更新日:2020/06/07
「粛清」の本来の字義は「 厳しく取り締まって清めること」です。
そこから、政治において「 反対派を厳しく取り締まって排除したり、追放したりして、政治的一体性を保とうとすること」について用いられるようになりました。
今回は、「粛清」の正しい意味について、類語や用例を示しながら、丁寧に解説してまいります。
「粛清」と「粛正」の違い、英語の表現や世界史上の「粛清」の例についてもご紹介いたしますので、この機会に覚えておきましょう。
1.「粛清」の意味
粛清
読み:しゅくせい
- 厳しく取り締まって清めること
- (政治上の)反対派を排除したり、追放したりすること
意味は「厳しく取り締まって清めること」
「粛清」の意味は、 厳しく取り締まって清めることです。
「粛清」の「粛」は、規律、戒律などを引き締め、身を慎むことをいいます。
そして、「粛清」の「清」は、悪いものを取り除き、きれいな状態にすること。
よって、「粛清」は、厳しい規律によって純粋な状態にすることという意味になるのです。
例文
- リーダーだったKさんは会社の上層部に逆らって粛清された。
- 上司に粛清されたため、行き場がなくなってしまった。
政治的な意味は「反対派を排除したり追放したりすること」
「粛清」は、現代では政治的な意味で使われることが多く、その場合、 国家や政党が自分たちの規律、ポリシーに与しない反対派を排除したり、追放したりすることをいいます。
自分たちの規律、取り決めに従わない者を排除することによって、清らかな状態を作ろうという考え方です。
例文
- 彼の祖父は文化大革命で粛清された。
- 反対派に対するスターリンの大粛清は歴史上悪評高い。
2.「粛清」と「粛正」の違い
「粛清」と似た言葉に「 粛正」があります。
「粛清」が「厳しく取り締まって、清める」という意味なのに対して、 「粛正」は「厳しく取り締まって、不正を除き、行いなどを正すこと」です。
- 「粛清」=厳しく取り締まって、清める(追放・排除)
- 「粛正」=厳しく取り締まって、不正を除き、行いなどを正す
「粛」の字は、「厳しいこと、厳しくすること」という意味があるので、「厳しく取り締まって」という点は同じです。
しかし、「粛正」の「正」には不正を正すことに対して、「粛清」の「清」には排除する・追放するという意味の決定的な違いがあります。
「粛正」は、「綱紀粛正(国家の規律や政治のあり方、また、それに関わる政治家や役人の行いを正すこと)」のように、 「正す」という意味が強調されるのです。
両者の違いをきちんと理解して、用いるようにしましょう。
例文
- 上層部の腐敗が明るみに出て、規律の粛正が徹底されることになった。
- 綱紀の粛正が今回の改革の中心課題だ。
3.「粛清」の類語と例文
「粛清」の類語には以下のような言葉があります。
これらも、正常な状態から逸脱した政治体制についていう言葉です。
類語1.「弾圧」
弾圧
読み:だんあつ
- 力で押さえつけること。
- 支配者が権力を以て反対派を抑圧する行為。
「弾圧」は、 力で押さえつけること、特に、国家や政党の支配者が反対派を押さえつけることをいいます。
「粛清」との違いは、「清める」行為が強調されないことです。
「粛清」が反対派を取り締まって排除し、独裁状態に導こうとする過程であるのに対し、「弾圧」は「押さえつける」「抑圧する」行為そのものが強調されています。
例文
- 独裁者による弾圧で亡命者が続発した。
- 弾圧の被害者には、音楽家や小説家など文化人も多かった。
類語2.「圧政」
圧政
読み:あっせい
意味:権力や武力などで民衆を押さえつける政治体制。
「圧政」は、 権力者が武力で民衆を押さえつける政治形態のことです。
「圧政」にも圧の字が用いられていますが、「粛清」や「弾圧」が反対派を押さえつけるのに対し、 「圧政」は一般の民衆全体が押さえつけられる対象になります。
例文
- 国王の圧政にあえぐ民衆が遂に反旗を翻した。
- 彼は国民に圧政を敷いたことで知られる独裁者だ。
類語3.「恐怖政治」
恐怖政治
読み:きょうふせいじ
意味:逮捕、暗殺など極端な手法によって反対派を弾圧して行う政治。
「恐怖政治」とは、 権力を持つ人や政党が反対する者を逮捕、投獄したり、ときには殺害したりして、そこから生じる恐怖感によって国民を統制しようとする政治形態のことです。
「粛清」は権力や武力による取締まりですが、「恐怖政治」はこれよりさらに極端な、暴力的政治をいいます。
歴史に限定した用法では、フランス革命のとき、ロベスピエールを中心とするジャコバン派が行った「恐怖による統治(la Terreur、英語で言うとReign of Terror)」のことを言いますが、次第に一般化していきました。
例文
- フランス革命時、ロベスピエールらジャコバン派が行った恐怖政治は民衆に脅威を与えた。
- 恐怖政治は連鎖的に次なる恐怖政治を生み出す不毛の政治形態だ。
4.「粛清」の英語と例文
「粛清」は世界史でよく目にする言葉、ビジネスシーンでも話題に上ることがあります。
フランス語やロシア語の表現とともに頭に入れておきましょう。
それでは、英語表現から解説していきます。
英語で「Purge」
「purge an enemy (a rival)」で「敵(ライバル)を粛清する」、「purge the radicals from a political party」で「党内から過激派を粛清する」となります。
ただし、 日本では「赤狩り」と呼ばれるマッカーシーによる冷戦時代の共産主義者に対する粛清はRed purgeではなく、Red Scareと表現されます 。
Red purgeと表されるのは、同じくマッカーシー指導のもとに行われた連合国軍占領下の日本における共産党員に対する「粛清」です。
混同しないようにしましょう。
例文
- He purged all political dissidents.
(彼は全ての反対派を粛清した。) - Foreign elements were purged from the organization under the former regime.
(旧体制の下で反対派は組織から粛清された。)
フランス語の「Epuration」ロシア語の「Чистка」も有名
「粛清」の意味を持つフランス語のエピュラシオンEpuration、ロシア語のチーストカЧисткаもよく知られた言葉です。
フランス語のエピュラシオンは、ドイツ軍幸福による「パリ開放」のとき、市民や兵士によって軍事政権やドイツ軍への戦争協力者に対して行われた私刑について言う ことが多いです。
ドイツ軍と親しかった女性やドイツ人将校と性的な関係を持っていたと言われる女性たちは、捕捉されて丸刈りにされ、さらし者にされました。
ロシア語のチーストカも、「粛清」や「Purge」同様、元々の意味は「清めること」ですが、単独で用いられる場合、 ソ連時代の党の独裁者による「粛清」について言われることが多いです。
5.世界史上有名な「粛清」
次は世界史上で有名な4つの「粛清」についてご紹介していきます。
それではひとつずつ詳しく解説していきます。
フランス革命の粛清
フランス革命時の「粛清」として有名なのは、前述のジャコバン派の恐怖政治です。
ロベスピエールを中心とするジャコバン派は自分たちの信奉する急進的な革命遂行のため、恐怖政治を敷いて反革命派を「粛清」しました。
皮肉なことに、そのロベスピエールもまた、最後は「テルミドールの反乱」で同士たちとともに処刑されることになります。
ソ連の粛清
「粛清」といえばソ連と覚えている人もいるくらい、ソ連共産党の「粛清」はよく知られています。
代表的な「粛清」として、レーニンとスターリンを紹介しましょう。
レーニン
ソヴィエト共産党の土台を築いたレーニン(1870ー1924)は、 権力掌握の過程で反対派を徹底的に「粛清」しています。
ボリシェビキの指導者として指導力を知らしめたレーニンがソヴィエト政権発足とともに手を付けたのが、非常委員会(チェーカー)の創設、反対派を次々と「粛清」。
レーニン自身の暗殺未遂事件時には、旧貴族や高名な政治家、軍関係者などが、反対派(帝政派)という理由で逮捕されたり、処刑されたりしました。
スターリン
ソ連の「粛清」の代名詞ともいえるのがスターリン(1878ー1953)、ソヴィエト共産党の第二代最高指導者です。
とりわけ、 「大粛清」と呼ばれる大規模な粛清時には、反対派の党幹部など有力な政治家は無論、関与の薄い一般党員や一般庶民にまで粛清の被害者になりました。
そのため、スターリンの大粛清に関しては、主に党内の粛清を意味する「チーストカЧистка」という語は用いられず、「ボリショイ・テロルБольшой террор」の語が用いられます。
文化大革命(中国)の粛清
文化大革命時代の中国も、「粛清」で有名です。
文化大革命は、 資本主義文化を批判し、新しい社会主義文化を創り出そうという名目でおこされた改革運動 ですが、その実、復権を目指した毛沢東による権力闘争の一端でした。
結果、紅衛兵と呼ばれた学生たちが政敵を攻撃しては失脚に追い込むという大規模な粛清となりました。
マッカーシズム(アメリカ)の赤狩りRed scare
アメリカの粛清といえば マッカーシズム。
アメリカは自由の国、一見、「粛正」とは無縁に見えますが、アメリカ史にも暗黒の「粛清」時代がありました。
冷戦の初期に当たる1948年頃から共産主義の脅威が高まり、それにつれ、共産党員と党にシンパシーを示していると見られた人々への「粛清」が始まります。
その先頭に立ったのが、共和党のジョセフ・マッカーシーだったことから、この時期のアメリカにおける「赤狩り」をマッカーシズムと呼びます。
マッカーシズムによる「粛清」は政治家や軍人だけではなく、文化人にも広く及んだのが特徴で、ハリウッドの映画監督や俳優、脚本家なども粛清の対象になりました。
あの有名なチャールズ・チャップリンも赤狩りの対象となり、ハリウッドを追われます。
6.現代の「粛清」
「粛清」は歴史上のものと思いがちですが、現代でも行われています。
よく知られているのは、現代の独裁国家北朝鮮の「粛清」でしょう。
北朝鮮の「粛清」
金日成(キム・イルソン)
現代の独裁国家といえば、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)。
その北朝鮮の土台を築いたのが、初代最高指導者の金日成(キム・イルソン 1912-1994)です。
金日成は「偉大なる首領様」として北朝鮮では神格化されている人物ですが、自身が属した 満州派に反対する勢力や、満州派内部の反対勢力に対して、徹底的な粛正を行いました。
金正日(キム・ジョンイル)
金日成の長男で、北朝鮮の第二代最高指導者であった金正日も、政敵に対して大規模な粛正を行っています。
偉大なる首領様の跡を継いで国家を治める必要のあった金正日は、 「深化組」という秘密組織を作り、父金日成時代から仕えていた古参幹部たちに対し、徹底した大粛清を行いました。
粛正の対象は幹部たち本人だけにとどまらず、側近や親族にまで及びました。
金正恩(キム・ジョンウン)
金正日の三男で、第三代最高指導者の地位に付いた金正恩もまた、父や祖父にならったかのように、粛正を行います。
2011年の年末に権力の座に付いた金正恩は、 翌年から軍上層部の解任、更迭を開始、権力の中枢にいた有力政治家を次々と粛清します。
政治的な理由だけではなく、私的な怨恨から処刑を命じたり、ときには酔っ払って執行を命じたりといった奇行に近い言動も報じられるなど、指導力が問題視される指導者といえるでしょう。
まとめ
「粛清」の意味は、厳しく取り締まって清めることですが、現代の用法としては、 政治的弾圧の一形態として用いられることが多い語です。
政治的な統一、一体性を保つために反対派を排除したり、追放したりして恐怖政治につながっていくケースが世界史のなかにも、現代政治にも見られます。
「粛正」との違いをしっかり意識して、正しく用いましょう!