最終更新日:2020/06/30
「忸怩」は、 「自らの言動を深く恥じること」を意味する言葉です。
「忸怩たる思い」という表現でよく使われますが、「悔しい」「憤り」という意味で用いるのは誤用表現ですので、注意が必要な言葉になります。
そこで今回は、「忸怩」の正しい意味と使い方を説明し、「忸怩たる思い」を使用した例文も紹介していきます。
「忸怩たる思い」を使いこなせれば、反省や謝罪を行うシーンなどで、相手方によりよく気持ちを伝えることができるので、ぜひ参考にしてください。
「忸怩(しくじ)」
一覧表
忙しい人のために、内容が一目でわかる一覧表を用意しました。
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意味 | 自らの言動を深く恥じること。 |
使い方 | 忸怩たる思い など |
間違った使い方 | 「忸怩」という表現には 「悔しい」「憤り」は含まれないので注意 |
類語 | 「自責の念(じせきのねん)」 「慚愧に堪えない(ざんぎにたえない)」 「羞恥心(しゅうちしん)」 |
英語表現 | 「ashamed」 「embarrassed」など |
1.「忸怩」の意味・読み方・語源とは
1-1.意味は「自らの言動を深く恥じること」
忸怩
読み:じくじ
自らの言動を深く恥じること。
忸怩は、「他人に褒められて気恥ずかしい」などの肯定的な文脈ではなく、 「自らの行動を恥じる」などの否定的な文脈で使用される言葉です。
そのため、フォーマルな場面で使用されることが多いですが、日常会話で使用されることはありません。
1-2.忸・怩も恥じるという意味がある
「忸」と「怩」には、それぞれ以下の由来があります。
- 「忸(じく)」は、「恥じる」「慣れる」の意味。
- 「怩(じ)」は、「恥じる」の意味。
「忸」のツクリである「丑」は、元々「ちゅう」と読み、「植物の芽が伸びきっていない様子」を意味することから「恥じる」という意味合いを持ちます。
一方、「怩」のツクリである「尼(あま)」は、「女性をののしる」意味を指すことから「恥じる」という意味を持つことが知られています。
したがって、「忸」と「怩」は、どちらも「恥じる」という意味を持ちますので、「忸怩」は 「とても恥ずかしい様子」を意味することになります。
2.「忸怩」の使い方とシーン別の例文
「忸怩」の意味について確認したので、次は具体的な使い方と例文を紹介していきます。
2-1.自分に対して反省の意を示すために使う
「忸怩」の主な使い方は、「忸怩たる思い」という表現が最も多いです。
「忸怩」は、「自らの言動を深く恥じること」を意味するので、他人を対象にとることはできません。
使用シーンとしては、大きな失敗や過ちを犯してしまった際に、反省の意を示すために使用することができます。
2-2.3つのシーンで使える例文
「忸怩」の例文を、以下の3つの表現に分けて説明していきます。
- ビジネスで使用する場合
- 目上の方に使用する場合
- 政治家が使用する場合
それぞれの例文を紹介し、使い方を解説していきます。
「ビジネス」で使用する場合
「忸怩」は、ビジネスシーンにおける 「失敗・不祥事・未達成」などを起こした際に、反省の意として使用することができます。
「忸怩」は、「恥じる」の丁寧な言い方ですので、フォーマルな場所でよりよく使用することができるのです。
<例文>
- プロジェクトを完遂することができず、忸怩たる思いであります。
- このような不始末を起こしてしまい、忸怩たる思いにかられております。
「目上の方」に使用する場合
「忸怩」は、目上の方に 「怒り・憤り・失礼」などを与えてしまった際に、謝罪の意として使用することができます。
「忸怩」は、「恥じる」の丁寧な言い方ですので、目上の方に対して敬意をもって接する言葉になるのです。
「政治家」が使用する場合
「忸怩」は、政治家の 「不正・不整備」が明らかになった際、謝罪会見のスピーチなどで使用されることがあります。
本来「忸怩」は、「恥じ入る気持ち」を表す言葉ですが、政治家は「悔しい」「憤る」という文脈で使用することがあるため、間違った使い方を覚えないようにしましょう。
続いては、「忸怩」の誤用表現について解説していきます。
3.「忸怩」の誤用表現
具体的な使い方・例文を確認したので、ここからは「忸怩」の誤用表現について紹介します。
「忸怩」の誤用表現は、以下の2つです。
- 「悔しい」「憤り」と混同するケース
- 「うじうじする」「しくじる」と混同するケース
「忸怩」という表現には 「悔しい」「憤り」は含まれず、「恥じる」という心情のみを意味します。
「不正・不祥事」が起きた際に「忸怩たる思いである」と、怒りながら発言する人がいますが、「悔しい」「憤り」の意味はありませんので、間違った使い方です。
また、「うじうじする」「しくじる」などは、「忸怩(じくじ)」と語感が似ているため、混同している人が多い表現です。
「うじうじする」は「未練がある様子」、「しくじる」は「失敗する」を意味し、「恥じる」という意味はありませんので、間違いになります。
「忸怩」は日常会話で使用することはなく、文脈と語感から曖昧に使っている人が多いので、「恥じる」という意味を忘れないようにしましょう。
続いて類語について解説します。
4.「忸怩」の類語
「忸怩」の注意点を確認したので、次からは類語を解説していきます。
「忸怩」の類語は、以下の3つです。
- 「自責の念(じせきのねん)」
- 「慚愧に堪えない(ざんぎにたえない)」
- 「羞恥心(しゅうちしん)」
それぞれの類語について、例文と一緒に意味を解説していきます。
4-1.「自責の念(じせきのねん)」
「自責」は、 「過ち・失敗を自分自身で責めること」を意味する言葉です。
「自責」は、「自責の念に駆(か)られる」と使用されることが多く、「忸怩」と同様に謝罪シーンで使われる表現になります。
<例文>
部下が取引先に失礼な態度をとったため、上司が自責の念に駆られ、代わりに謝罪した。
4-2.「慚愧に堪えない(ざんぎにたえない)」
「慚愧に堪えない」は、 「自分の行いについて、残念に思うこと」「恥ずかしく思うこと」を意味する言葉です。
「慚愧」は仏教用語であり、「慚」は「自らの心に罪を恥じること」、「愧」は「罪を恥じて告白すること」を意味し、「恥じる」を繰り返した固い表現ですので、「忸怩」に近い意味として使えます。
<例文>
労働問題が発覚した企業の社長は、慙愧に堪えないとメディアの前で発言した。
4-3.「羞恥心(しゅうちしん)」
「羞恥心」は、 「恥ずかしいと感じる気持ちのこと」を意味する言葉です。
「忸怩」は、自分自身に対する「恥の気持ち」を表現することが多いですが、「羞恥心」は相手に対して使用することができるため、「不満・苦情・批判」を遠まわしに表現することができます。
<例文>
彼は人前で堂々と裸になるのだが、羞恥心はないのだろうか。
5.「忸怩」の英語表現
最後に、「忸怩」の英語表現を紹介していきます。
「忸怩」の英単語は、以下の2つがあります。
- 「ashamed」
- 「embarrassed」
それぞれについて、例文と合わせて解説していきます。
5-1.「ashamed」
「ashamed」は、 直訳で「恥ずかしい」を意味する英単語です。
「be ashamed of~」という熟語を使うことで、「恥を感じる物事」を具体化し、文章を構成することができます。
<例文>
I‘m ashamed of the same mistakes.
(同じミスをして恥ずかしいです。)
5-2.「embarrassed」
「embarrassed」は、 直訳で 「恥ずかしい」「当惑する」を意味する英単語です。
「embarrassed」は日常会話でよく使用される英語表現であるのに対し、「ashamed」はフォーマルな場所で使用される言葉ですので、使い分けてみてください。
<例文>
I was really embarrassed at that time.
(私はその時、とても恥ずかしかった。)
まとめ
「忸怩」は、 「自らの言動を深く恥じること」を意味する言葉です。
「悔しい」「憤り」などの意味合いはありませんので、間違わないようにしましょう。
謝罪を申し入れたい場合には、「忸怩」を用いて導入文を作ると、よりよく相手に意図を伝えることができますので、ぜひご活用ください。