最終更新日:2020/05/09
「忍びない」は「耐えられない」「我慢できない」という意味があり、日常的にだけではなくビジネスでも多用できる言葉です。
「忍びないのですが」を「申し訳ないのですが」として使っていたり、「誠に忍びない」を「誠に申し訳ない」の意味で使っている人はいませんか?
「忍びない」と「申し訳ない」は、低姿勢なニュアンスは同じですが、実は本来の意味は異なります
そこで、今回は「忍びない」の正しい意味や使い方、「申し訳ない」との違いなどを詳しく解説していきます。
1.「忍びない」の意味
「忍びない」は 「しのびない」と読み、「我慢できない・耐えられない」という意味です。
「忍ぶ」には、本来以下の意味があります。
- 我慢する・辛いことに耐える
- 身を隠す・人目を避ける
「忍びない」の「忍ぶ」は、上の「我慢する」という意味です。
「忍ぶ」がないと言っているので、「我慢することができない」となるのですね。
1-1.「忍ぶ」と「偲ぶ」は違う意味
「偲びない」の「偲ぶ」と「忍びない」の「忍ぶ」の意味は、それぞれ以下の通りです。
- 【偲ぶ】⇒過ぎ去った過去や遠く離れた人を懐かしみ、恋しく思う
- 【忍ぶ】⇒我慢する・辛いことを耐える
「偲ぶ」の意味だけ見ると、「我慢する」という意味の「忍ぶ」とは全く違う言葉ですよね。
しかし、「偲ぶ」の 「恋しく思う辛さ」が「我慢できないほどの辛さ」とニュアンスが似ているため、漢字が混同して使われることがあります。
1-2.【注意】「忍びない」は「申し訳ない」ではない
「忍びないのですが…」というフレーズを、「申し訳ないのですが…」と受け取っている人が多くいます。
しかし、実際には以下のようなニュアンスの違いがあり、同じ意味で使うのは誤用です。
「忍びない」 | 「申し訳ない」 | |
それぞれの意味 | 我慢できない・耐えがたい | 相手に対して反省している様子 |
よく使うフレーズ | 「忍びないのですが」 | 「申し訳ないのですが」 |
フレーズの意味 | 耐えがたい | 悪いと思っている(謝罪) |
つまり、相手に何かを頼む際に、「忍びないのですが」と使う場合には、正しくは以下のニュアンスがあります。
- 「こういうことを頼まなければならなくて耐えがたいのですが」
- 「あなたの時間を使ってしまうのは耐えがたいことなのですが」
一方 「申し訳ないのですが」には謝罪の気持ちが込められています。
- 「こういうことを頼むのは悪いと思っているのですが」
- 「あなたの時間を使ってしまって悪いと思っているのですが」
このように「忍びない」と「申し訳ない」とではニュアンスに差があります。
謝罪の意がある時には、「申し訳ありません」を使いましょう。
2.「忍びない」の使い方
「忍びない」は、 自分の言動に対しても、相手の言動に対しても使うことができます。
「忍びない」は、以下の表現で使われることが多いです。
- 「~するに忍びない」
- 「~は忍びないので、」
- 「忍びない○○」
では、それぞれの表現を使った例文を意味と一緒に以下で確認してみましょう。
- こんなに悲惨な事件は、聞くに忍びない。(こんなに悲惨なニュースは、聞くに耐えない。)
- お手数をおかけするは忍びないので、こちらで扱います。(お手数をおかけするのは耐え難いので、こちらで扱います。)
- そんなバカげた話は、聞くに忍びない噂だ。(そんなバカげた話は、聞くに耐え難い噂だ。)
2-2.ビジネスシーンでのフレーズ
「 忍びない」はフォーマルなシーンでも使うことができます。
以下はビジネスシーンで使える「忍びない」のフレーズ例です。
3.「忍びない」の類語
「忍びない」を他の言葉で言い換えたい時には、様々な用語を使うことができます。
自分に対して使う際の類語と、相手に対して使う際の類語に分けて紹介するので、ニュアンスの違いも参考にしましょう。
3-1.自分に対して使う時の類語
自分の行動に対して使う際は、以下の言葉を使うことができます。
それでは、それぞれの言葉を詳しく見ていきましょう。
①耐え難い
「耐え難い」は、「忍びない」と同様、 「我慢ならない」という意味です。
「忍びない」と同じニュアンスなので、同じような使い方ができます。
以下で「耐え難い」を使った例文を見ていきましょう。
- 母に私生活についてあれこれと言われるのは、耐え難い。
- 今日の講義は退屈で耐え難かった。
②目も当てられない
「目も当てられない」の意味は、 「ひどくて見ることもできない」です。
「目も当てられない」は、「見るに忍びない」と使う時に言い換えとして置き換えることができます。
以下の例文で「見るに忍びない」と置き換えた例文で確認してみましょう。
- テストの点数が悪すぎて、目も当てられない。(テストの点数が悪すぎて、見るに忍びない。)
- 昨日の試合は、目も当てられないほどひどいものだった。(昨日の試合は、見るに忍びないほどひどいものだった。)
3-2.相手に対して使う時の類語
相手に対して「忍びない」を使う時は、 ニュアンスによっては批判的な印象を与えてしまいます。
自分が否定的なニュアンスで「忍びない」を使っていなくとも、相手によっては不快な印象を与えてしまうかもしれません。
そのようなニュアンスのすれ違いが不安な時は、以下で紹介する言い換え表現を使ってみましょう。
以下で、それぞれの言葉について詳しく確認していきましょう。
1.可哀想
「可哀想」は、 「悲惨な状態や悲しい心境にある相手に同情を表す様子」です。
同情のニュアンスを示したいけれど、「忍びない」では大げさに聞こえてしまうかもという場合に便利です。
それでは、例文を見てみましょう。
- 君にこんな大変なことが起こるなんて、可哀想だ。(君にこんな大変なことが起こるなんて、聞くに忍びない。)
- 毎日多くの動物が処分されているのは、可哀想なことだ。(毎日多くの動物が処分されているのは、見るに耐えない。)
2.不憫・気の毒
「不憫・気の毒」は、 「憐みの気持ち・可哀想な感情」という意味があります。
「可哀想」と同じく「忍びない」の聞こえ方が大げさに聞こえる時に使いやすい言葉です。
また、「忍びない」は相手によっては、やや固い表現に聞こえるので、「不憫・気の毒」を使った方が自然に聞こえる場合もあります。
それでは、以下で例文を確認していきましょう。
- 大事な指輪をなくしたんだって?それは不憫だ。(大事な指輪をなくしたんだって?それは忍びない。)
- 入院だって聞いたよ。なんて気の毒な事だ。(入院だって聞いたよ。なんて忍びない事だ。)
4.「忍びない」の英語表現
「忍びない」を英語で表現したい時には、以下の言葉を使ってみましょう。
- can’t bear (耐えることができない)
- can’t stand (我慢ならない)
どちらも日常的に良く使われている言葉なので、 日本語の「忍びない」ほど固い表現ではありません。
では、それぞれの言葉を含んだ例文で確認していきましょう。
- I cannot bear to listen today’s news.(今日のニュースは見るに忍びない。)
- I cannot stand that my little brother got lost on his important game.(弟が大事な試合で負けてしまったのは、忍びない。)
まとめ
「忍びない」の意味は、「我慢できない・耐え難い」です。
ビジネスシーンにおいては、「申し訳ない」などの謝罪的なニュアンスと誤用されていることも多いです。
相手に迷惑をかけてしまって…と姿勢を低くするニュアンスは同じですが、反省の場面などでは場違いな表現にもなってしまいます。
また場面によっては固めの表現に聞こえてしまうこともあります。
「忍びない」は、相手と場面をしっかり見極めながら正しく使っていきたいですね。